90ミニッツ
アルゼンチンに到着して2日目の朝。
流石に30時間近い長時間移動の疲れは16歳のヤングな身体にもそれなりにやってきた。
この日は特に予定を入れず休息日にしていたが、家でゆっくりと身体を休める事よりも早くブエノスアイレスの町を歩いてみたいという気持ちが強かった。
朝食に何を食べたか覚えてないがトーストと目玉焼きのような簡単なメニューだったと思う。
きっと僕はトーストの上に目玉焼きをのせて一気に食べたはずだ。
高校でのサッカー生活を終えたばかりの僕の髪は坊主ではないが短く、体つきも細かった。
上下ジャージのような簡単な格好で町に出たのは、それが僕の中でのオシャレだったという事と、サッカー選手として日本からやって来たという小さなプライドだった。
外の景色を眺め、この町に長く住むという実感は全く芽生えていなく、修学旅行のような感覚で街並みや行き交う人々を落ち着きなく目で追っていた。
ブエノスアイレスの街並みは前にも記したが、南米のパリと呼ばれるほど古き良き佇まいの建物が立ち並んでいる。
日本と同じ銘柄の炭酸ジュースが売っている事が嬉しく、映画館の前を通ると日本でも宣伝していた映画がかかっていたのも嬉しかった。
僕はブエノスアイレスの街並みの中に自分の知っているモノを探し、安心を得たかったのだと思う。
昼食は代理人と5ペソ(当時は1ペソ=1ドル)食べ放題の中華屋で、具材などほとんど入っていない麺ばかりの焼きそばと米と卵のみのチャーハンをお腹いっぱい食べた。
頭と心にホームシックはなかったが、身体はホームシックになっていたのかもしれない。
食事を終えた午後。アルゼンチンの有名サッカークラブ、リバープレートのスタジアムと練習施設を見学に行った。
6万人以上収容するスタジアムのすぐ脇に練習場があり、小学生になるかならないかであろう小さな子供達が試合をしていたのでしばらく観戦してみた。
子供達のサッカーの上手さに気づくには少々時間がかかった。
なぜなら分かりやすいフェイントなど南米のイメージであるドリブルテクニックが目立つわけでなく、敵がいない方へ逃げながら、確実にボールを相手ゴールへ運ぶという派手ではないが、日本の高校生や大学生のようにボールを動かしている上手さだったからだ。
そしてもう一つ驚いたのは試合がなかなか終わらない事で、代理人の知人でリバープレートのコーチをしている人に質問すると、45分ハーフの90分ゲームをしているという。
大人と同じ試合時間を6.7歳の子供がプレーしていたのだ。
毎回ではないかもしれないが、この世代から
90分間の試合運び、ペース配分を身につけている。
日本の小学生が90分のゲームをしているなんて事を聞いた事がない。せいぜい30分ハーフの60分。それでも長い方だろう。
この時、日本はアルゼンチンにまだまだ勝てないと思ってしまった。
そんな僕がまず練習に参加したのが、
元アルゼンチン代表のトログリオが主催する選手育成組織だった。
そして僕はいよいよアルゼンチンサッカーの内部に入っていく。
*写真一番左が僕です。