アルゼンチンサッカーの底辺。

30時間ほどのフライトを終え、ブエノスアイレスに到着した時には身体の節々が縮んだような感覚があった。脳みそは筆が進まない作家が丸めた原稿用紙のようにクシャクシャに丸められていた。そんな感覚だ。

ただ僕は飛行機で良く眠れる男らしく、ほとんどの時間を寝て過ごした。

そのおかげで体内時計が狂い、正常な時間感覚というものを失ったようで、到着したブエノスアイレスの時間が正常な体内時間だと認知したのか時差ボケはなかった。

体内電池を入れ替えたようだ。

ブエノスアイレス

ブエノスは良い。アイレスは空気…という意味だ。そんな話を代理人日系人から聞くと、空港で大きく息を吸い込み深呼吸をしてみたが、

そのアイレスは成田空港となんら変わらない気もした。しかし入り込んんだ空気の量が違って感じたのは、僕の肺が空気を欲しがっていたのかもしれない。

 

空港からブエノスアイレスの中心部までは車で1時ほどかかったはずだ。

バスでも行けるが、荷物の多さからレミースと言われる無許可の個人タクシーを利用した。

レミースの運転手達は空港出口で待ち受け、入国者に声をかけてくる。

値段も決まってなく、目的地を伝えて交渉するのだが、アルゼンチン人にとってアジア人はお金を持っているイメージがあるのか、代理人が値切り交渉をすると運転手は眉間にシワを寄せ僕らを見ずに車に乗り込むようにジェスチャーをした。

 

空港を離れた車。

見えてくる景色は有り余る土地だ。

その至るところにサッカーゴールの枠だけが無数に立っている。

いつでも誰でもが好きな時にサッカーができる環境にアルゼンチンサッカーの底辺を見た。

街を歩く子供達はボール抱えている。

大人達は自分の好きなチームのユニフォームを着ている。

しばらく進むと、アルゼンチンサッカー協会

AFAの文字が書かれたゲートが見え、そこは代表チームの練習施設だと代理人は教えてくれた。

マラドーナがいた代表。カニーヒァ、バティ、オルテガガジャルドアジャラクレスポサネッティシメオネ、、アルゼンチン代表が

目の前のグラウンドで練習をしたと思うと興奮した。

自分はアルゼンチンまで来たと実感が突如湧いた。

飛行機の中で数時間寝ても見れなかった夢が、

目を覚ました現実の世界に広がっている事が不思議だった。

目的地の住居に到着すると、そこはアルゼンチンの中心部にほど近く、高いビルもあるような都会だった。

東京で育った僕は何の違和感もなくその景色を受け入れたが、今思い返すとブエノスアイレスの景色に東京を重ねただけの錯覚だったのかもしれない。

アルゼンチンで過ごした3年間、一度もホームシックというものが無かったのは都会の錯覚が生んだ処方薬だったのかもしれない。

僕のブエノスアイレスでの生活がはじまった…

その日の夕食は牛肉だった。f:id:onigiridream:20190609175650j:image